感動したこと

自分の記憶の中でもっとも神秘的で美しい光景を思い出しますと、国分寺市に住んでいた30年程前に、休日は “奥多摩湖” 周辺に良くドライブして散策しましたが、その時の感動的場面です。
10月末か11月初の晩秋に妻と娘の3人で出かけたのですが、湖畔を散策している時に突然山側の空に、超極細のボールペンで無数の黒い点々を描き、その点々から夕陽に照らされて銀色に輝く極細の長い糸が、いく筋もいく筋も空一面に吹き上がっていく光景に遭遇しました。

地上で生まれたばかりの数百匹の蜘蛛が、上層気流に乗り糸を吹き流して一斉に空中に舞い上がり移動する現象であり “遊糸” (中国語)と言います。英語では “ゴサマー(gossamer)、日本語の山形地方では、この空飛ぶ飛行グモを“雪迎え“ と美しい日本語で呼び、”雪迎え”のあとには決まって雪がやってくるとのこと。
秋はそのように蜘蛛の子の「旅立ち」のシーズンでもありますが、この現象が現れるのは晩秋の快晴で無風という気象条件や地理的条件等が揃った時でもあり、最近では各地方で開発が進み条件の揃った場所も少なくなったとの事です。
当日は、前面に陰った薄暗い山々と後方からの夕日の射す間に居たからこそ気が付いた現象であり、他の人達は誰も気づいていませんでした。

10数年後に娘と妻とその時の情景を話したが、めったに遭遇しない感動的場面ではあるけど、年代によって記憶に受け止める現象が異なるのか、娘は覚えていないとのことでした。
また、その後に辺見庸の「航海記」だったと思うが、彼の随筆を読んでいる際に中国の北京の北方の遺跡に友人といった時に “遊糸” の感動的場面に出会ったことを記しています。

コロナ禍で三密禁止の為、外食時も“黙食”という言葉が良く言われていますが、通っているスポーツセンターの浴室には“黙浴”という貼り紙が貼ってあり、プールでも友人・知人との会話は禁止されています。
自由に自然を満喫するための外出も憚れる現在、このような神秘的な光景に出会うことはないでしょうが、コロナも早く終息して会食や旅行を再開したいところです。

文責 有馬 孝之

昨秋描いた 「グループ展の作品」 です

思い出の品(水彩画8号)
薔薇(水彩画8号)
朝鮮アザミ(水彩画8号)